タスマニアで持たない暮らし:自給自足菜園プロジェクト
この記事のつづきです。
自給自足菜園プロジェクト
ここにきてから早数日。
靴の裏を叩いてサソリがいないか確かめてから靴を履くという動きも自然にこなせるようになってきた。
今はジュールスの最重要プロジェクト、いや私たちにとってもとても重要な『自給自足菜園』を作るという一大プロジェクトが進行中だ。
今までは数日に一度ジュールスが町まで買い出しに行き、野菜なども調達してきたようだ。
しかしコスト的にも厳しく、なにせ生鮮食品はまとめ買いができない。
ジュールスの収入源であるブルーベリーはまだ収穫までしばらくかかる。
時間がある今のうちにウーファー達に自分で畑を作ってもらい、野菜を育ててもらおうということらしい。
私とイヴァンはほとんど肉を食べないので、もっと野菜のバリエーションが欲しいと思っていたところだった。
毎日新鮮なガーデンサラダが食べられるのなら、畑づくりもがんばれそうだ。
ここにきてからの数日は、荒れ放題の菜園予定地を整えることで終わってしまった。
地面にある岩や石を取り除き、雑草を抜き続けた。
てこの原理を駆使しみんなで協力して大きな岩を動かしたりしている時、実家周辺の土地を開拓したご先祖様に感謝と尊敬の念を抱かざるを得なかった。
遠い鳥取から持てるだけの荷物を持って、寒い北の荒地に家まで立てたんだから。
大じっちゃん、会ったこともないけれど、あなたのフロンティア精神的ななにかは間違いなく私の中に受け継がれてるよ!(主に悪い方向に)
いや本当に、木を切り倒したり根っこを抜いたりという作業が無くてほんとうによかった‥。
土地を整えたら次は菜園を野生動物達から守るためのフェンスを取り付ける作業に取り掛かる。
まず一定間隔に穴を掘り、その穴に柱をいれてコンクリートを流し込み、コンクリートが固まったらそれを土で覆う。
あとは柱と柱の間にフェンスを張り、出入り口のゲートを取り付けたら完成だ。
と、文字で書くのはいたって簡単だけれど、この作業は人生でいちばんの体力仕事だった気がする。
石ころをよけていただけでひいひい言っていた昨日の私を平手打ちしたいくらいだ。
穴を掘るだけならまだいい。しかし穴を掘ると、結構な確率で岩を掘り当ててしまうのだ。
ジュールスも想像以上に岩があったようで、「この土地が安い値段でいままで残っていたのは、怠け者のイギリス人開拓者たちが岩に根をあげて長い間だれも手をつけたがらなかったからかもね」なんて笑っていた。
まったくもって笑い事ではない。
しかし、この作業を終えて畑を耕せばとれたての野菜が食べられる。
スコップで穴を掘り手当たり次第の石や岩をよけ、岩がでてきたらウーファー仲間3人で穴を広げ岩を露出させ、てこを使って岩をよける。
現在のメンバーで唯一の男手であるイヴァンは人一倍がんばったのだろう、かわいそうなことに手が血豆だらけになってしまった。
せっせと働くイヴァンを見て、私たちももっと頑張らねば、と穴を掘り続ける。
まだ一緒に暮らし働き始めて数日だけれど、やっぱり同じ釜の飯を食べ、協力し合いながら肉体労働に励むと、オフィスワークでは感じられないようなチームワークを感じる。
数日かけてやっとフェンスを完成させた私たちは、ついに畑を作る段階に入った。
畑を耕し、以前この場所からよけた岩や石で囲っていく。
やっとここで私たちが毎日世話をしていた苗たちの出番だ。
土に人差し指で穴をあけ、小さな苗たちを植えていく。
これからどんどん種を発芽させて苗を育てていくようなので、まだまだ野菜やハーブのバリエーションは増えそうだ。
新鮮なガーデンサラダを夢見てひとつひとつ丁寧に植えていく。
中でもいちごを植えているときがいちばん捗った。
ここで働いていて与えられる食料は、食事のためのもののみ。
よって、お菓子類は自分たちで街に行って買うしか手に入れる術がない。
りんごやバナナなどのフルーツが私たちのおやつなのだ。
赤く熟れたいちごを想像しながら、どんどん苗を植えていく。
自分たちで作ったフェンスにとりつけたゲートを開けて、畑を見渡す。
1日4時間、毎日集中して全力で取り組んで早数日。
農業の経験もなにもない3人でも、無事に立派な菜園をつくりあげることができた。
もちろん、ジュールスに指示されたとおりに動いただけなのだが、それでも大きな達成感がある。
みんなで協力して作ったこの菜園からとれた野菜で最初のサラダを食べる時に、私たちはもっと大きな達成感と幸福感を感じられるんだろうな。
雑草たちめ、栄養は渡さないぞ。